>> SWEET 


デンが吠えてる。

あれ、とアルが視線を上げた。

デンの声に警戒の色は無い。むしろ喜ぶような、甘えるような。あの吠え方は。

「話題の人が来たみたいね」

「……ほんとだね」

そう言ったあたしの横では、アルまでももう既にそわそわしている。

まったくデンじゃあるまいし、一緒に暮らしてる兄貴相手に、どうしてこうも気持ちを揺らせられるのか。それがたとえ恋人だとしても。

あたしは呆れながら、もう一人分のお茶を淹れる為に立ち上がった。





あたしの幼なじみたちは、兄弟の癖にデキている。

それはもうこっちが呆れるくらいラブラブにデキちゃってる。

ええもう、ほんとに呆れるくらい。

何が楽しくて男兄弟とデキる必要が?とは思うけれど、お互いが大切だと全身で叫んでるみたいなふたりには、他人が口を差し挟む余地は無いようだ。・・・・・まあ嫌味は言わせてもらうけど。

お父さんがいなくなって、お母さんが亡くなって、自業自得とはいえ、色んなものを失って。そんなふたりが、お互いを大切にするのはよく理解できる。・・・・・・・・だからって恋情になるのもどうかと思うけど。

自分の考えにいちいち突っ込んでいたあたしは、思わずため息をついた。

しゅんしゅんと音を立てて沸いたお湯を眺める。

その恋情が、こんな風に沸き立ってのことだったら、後は冷めるだけだったかもしれない。

あいつらの状況が決して生易しいものではなく、お互いがそれぞれ切り離せない存在だということは見てて明らかだ。

それを傍から見るしかないというのが、あたしはずっと悔しかったんだけど。

「おっと」

がちゃん、と音を立ててケトルからお湯が吹き零れるのを慌てて止める。

でもアルはこんな風じゃない。こんな風になったりしない。

アルは二度もあいつの手の中から生まれた。アルにとっては、身に迫ってエドが自分の全てなのだろう。アルがエドを好きでいるのは、息をするように自然なことなのだ。

ポットに沸き立ったお湯を注ぐと、葉っぱが中で踊る。見る間に琥珀色に染まっていくお湯。

アルの方は違うけど、エドはこの葉っぱみたいなもんだ。守るべきものが突然変化して翻弄されちゃってる。

急に沸き立った訳でもないのにあの兄貴ときたら、自分のことには鈍いもんね。

・・・・・・・とは言え、戸惑いながらもきっちり受け入れて、ちゃんと美味しいお茶になるんだから、それが何って話だわ。

「・・・・・・・・・・知ったこっちゃないけどー?」

なんとなくムカムカしながら、新しく淹れたお茶を持って戻ると、件のふたりはデンに遊んでもらっていた。

「あんたね、お茶が来るまでぐらい待てないの?」

エドときたらアップルパイをもしゃもしゃ食べながらで、まったく行儀の悪いことこの上無い。

「おう」

人の話は聞いているのかいないのか、おざなりな挨拶だけをするエドに、あたしは口を曲げてみたけど、それで聞くような奴じゃないってのは心底判っているつもりだ。

「アルも、止めなさいよ」

「うん。言ったんだけどね」

そう言うアルも心底から止める気がないのは明らかだ。

もちろんアルはどっちかというと礼儀には厳しい方だけど、結局エドには甘い。エドの押しの強さも手伝って、どうしてもという場面でなければ注意したことに満足してしまう傾向がある。つまりよりタチが悪い。

しかもそれがあたし相手だとなれば。

「あぢっ」

「兄さん!」

「てめ、お茶ぐらいまともに淹れられんのか!」

お茶を飲みかけたエドが、熱さにそれを噴き出した。あー、そういえばさっきぐらぐら煮立たせたもんね。

「こどもじゃないんだから、熱いかどうかぐらい自分で判るでしょうが」

「そういう問題じゃねえ!」

あたしたちの言い合いをくすくす笑いながらアルが見ている。何微笑ましい顔してんのよ。

あたしはちょっとムカついて、エドにさらに嫌味を言う。

「そんなに熱いんだったら、アルにふーふーしてもらえばー?」

「なっ」

エドは言葉に詰まったままふるふると震えた。

「ふーふーしてあげよっか?兄さん」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ」

そしたらアルまで乗っかってきちゃったので、エドは怒りでか、恥ずかしさからなのか、真っ赤になって二の句を繋げないでいた。

「あら、いーわねえ。ラブラブでうらやましいこと」

あたしが笑うと、エドがついに切れた。

「・・・・・・・・・・アルのスカポンタン!もう帰ってくんな!」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

そう叫ぶと、ものすごい勢いで家を出て行ってしまったのだ。

「スカポンタンって、久しぶりに聞いたわ」

「何でボクだけ怒られるの・・・・?」

あたしたちはそれぞれの理由で、それを呆然と見送る。

「アル、追っかけてらっしゃい」

「えー?」

「あんたに追っかけて欲しいから名指しなんでしょうが」

「・・・・・そんなもの?」

知らないわよ、と心の中で答えながらも、あたしは当たり前だと言うように深く頷いた。

「早く」

しぶしぶながらもアルが奴を追って行ったのは、あたしの勧めというよりは、更にエドを怒らせることを危惧したからだろう。

そして後に残ったのは。


食い散らかされたアップルパイと、中途半端に残された紅茶。

「何であたし、あんなのが好きだったのかしら・・・・」

そんな風に思うこと程悲しいことってないわね、とひとり遠い目をして、あたしはとりあえず手に持ったままだった紅茶に口をつけた。





2008年のなっこみで配布したペーパーみたいです多分(え)大阪で配布したかどうか覚えてないんですが、Sweet FA本体が売り切れていたようなので、多分持ってってないんじゃないかと。(なんと曖昧な)
短かったので、改稿ついでにちょっと足しました。時間軸的にはSweet pea → Sweet FA →(直後) このペーパー みたいな感じですが、ウィンリィ視点なのはコレだけです。
でもこういう感じで三人でわーわーやってるだけの話なので、恐らくどれを単独で読んでも問題ないかと。
まあそういう訳でSweet peaもよろしく(営業か!笑)

2009.6.25(改稿) 礼