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「重いよ、兄さん」
「・・・・・・・・」
「わっ、重いんだってば反対反対!」
ぼーっと窓の外を見てたら、ぐいぐいと兄さんが体重をかけてきた。
ボクはお腹のとこに力を入れて、倒れたからだを戻す。
ボクがぼーっとしてるとき、だいたい兄さんはボクに構いたがる。
「どうしたの?」
そういうとき、兄さんと目をあわせようとすると、兄さんはだいたいもう拗ねちゃってることが多い。
ほんと仕方ないひとだなあ。
「兄さん?」
こういうとき兄さんは、捨てられてひとを怖がる猫と一緒。
放っておくとその内寂しくなるから。
窓の外に目を戻す。
外はひどくいい天気。
ひとの感覚というのはほんとにすごい。
雨のにおい、夏のにおい、ぱっと目に入ったり感じるもの以外にも、たくさんのものを感じる。
空気の色。電話の予感。
一度失ってから、身に迫って感じるようになった気がする。
だからつい。
どか、と肩にまた重みが加わった。
今度こそそれを逃がさないように、声をかける前にボクはその腕を捕まえる。
それに驚いたように手を引きかけるのをぎゅっと握って離さずにいたら、兄さんは小さくボクの名前を呼んだ。
「何?」
鎧の体をもっていた時は、感じることの無かった兄さんの重み。
「重いよ兄さん」
顔の横から、さらりと金の髪が流れる。
嫌なのかよ、と呟く声。
「嫌なわけ無いだろ」
兄さんの重みだ。
兄さんのにおいと。
兄さんの。
「じゃあ、我慢してろ」
「嫌じゃないっていってるのに」
声を音でなく、振動で感じるということ。
視線を、目より先に。
「でも重いんだろ」
肌で。
「重いから、こっち来ない?」
とんとん、と膝を指すと、兄さんが真っ赤になるのがわかった。
「絶対嫌だ!」
「わがままだなあ」
かわいいなあ。
「誰がワガママだ!!」
「じゃあ、素直じゃないなあ?」
お前オレをバカにしてるだろ。と訳のわからないことを言い出す兄さんは、もういい、とボクから離れようとしてじたばたする。
「ダメ。離さないってば」
兄さんがこっちからぎゅってしてくれるまで、離さないよ?
「・・・・・・・」
なんだソレ。って兄さんが自分のことは棚に上げて呆れた。
「お前の方がわがまま」
「そう?」
「そうだ」
仕方ないなーアルは、って兄さんがもがいてた分の力を緩めて、こっち向けとかえらそうに言う。
仕方ないなぁってまたボクも思って。
兄さんにゆずる気持ち半分、ボクの気持ち半分で兄さんの方を向いて。
重いよ、アル。って言ってもらう瞬間を待つんだ。
・・・・・バカップル・・・(笑)
でもタイトルが上手くついたかなあ。
04.7.7 礼