「好きだよ」
>> 愛していると君が言う
エドは耳を疑った。
弟から発せられた台詞は、兄としては疑うにじゅうぶんだった。
「好きだって言ったんだよ」
ひどく真剣そうな声音。鎧の体の弟に、表情は見当たらないけど、それでもエドは簡単に想像することが出来た。
弟の、アルの、言い出したら引かない意志の強い瞳。
「それ・・・」
どくん、と心臓が波打つ。
「兄さんが好きだ」
大きな手。その指先がエドの頬に触れようと伸ばされる。それに一瞬すくんだエドを見てか、アルの指は触れずに止まってしまう。
「兄弟だぞ」
「そうだね」
ああ、とエドは嘆息してアルから目をそらした。アルは本気だ。言葉の穏やかさがそれを証明している。
好きだ、なんて。
大事で、大事で、大事すぎて。好きだとか愛してるとか、そんな言葉より先に、何があっても失えない。そんな思いに支配されていた。
それは、好きだというのとは違うのだろうか。それを好きだというのだろうか。
「わかんねぇ」
あの日、弟を失ったと思った。だけど失いたくなくて、絶対に嫌で、自らの手で、どんな業を背負おうとも構わなくて。
取り戻したあの日から。
自分は。
「わかってるよ、兄さんは」
そう言ったアルは、今度こそ躊躇せずにエドの頬に触れた。
冷たくて、固い皮の感触。
頬を傾けて目を閉じる。
それは頬に引っかかって、撫ぜることも出来ない指先。その指先で。
「わかってる?」
「うん。でもわからないままでもいい。わからないふりをしてて」
あいしていると。告げる。
「・・・言ってることむちゃくちゃだぞ、アル」
「そう?」
その鋼の手をつかんで、頬から引き離す。睨み上げる目にも今は何の効果も無い様だった。
「・・・・っと、おい、アル!」
大きな手がひるがえる。掴んでいたこっちの手など簡単にはじいて、アルフォンスは鎧の腕の中にエドをとじ込める。
「禁忌でもいいよ。もう、兄さんしかいらないから」
「アル・・・・・」
鎧の、鋼鉄の手から、腕から胸から。
どうして思いが伝わる気がするんだろう。そんなはずもないのに。
そんなはずもないのに、伝わる気がするのは、そうあって欲しいと願うからだ。
冷たい鋼鉄に宿るはず無かった魂。
それが叶った瞬間にじぶんたちはまた、間違えてしまったのだろうか。
「後悔するぞ」
「するわけない」
ひかりと音と。風のにおいと、エドの鋼の腕の冷たさを知ればいつか。
エド以外も見えてくるのだから。
それでも願う。
それでも願ってしまう。
アルフォンスには今は自分しかいないから、そんなことを言うのだとわかっていて。
「後悔したっていいんだ」
「バカ言うな。お前は幸せになるんだ。今は、体が」
「兄さんが」
エドの言葉を遮って、吐き出されたアルの言葉を、エドは気の遠くなるような思いで聞いた。
兄さんがボクをつくるという業を請け負って、ボクに半分もたせてはくれない。
それならボクが兄弟という業を請け負う。だから兄さんは何にも知らない振りで笑ってていいんだ。
「何、言って・・・・」
それは恋だろうか。愛だろうか。それとも。
「お前」
泣き笑いになった。どうやって泣けばいいのか判らないでいるうちに、笑ってごまかすようになった。
「オレのためにオレを好きになったのか?」
でも、こんなに泣きたいのか笑いたいのか分からない気持ちになったことはない。
「ちがうよ。兄さんがボク以外の誰かを好きになるなら良かったんだ。・・・体を持っていたらそんな悠長なことはいえないのかもしれないけど、今はそうじゃないから」
「アル・・・・」
「あ、ほら、また申し訳ないって顔する」
手袋の手がアルの胸のあたりを掻こうとして滑った。それに気付いたアルがエドを抱き上げる。
「だいすきだよ」
間近で見つめたら、もっと複雑な気分になって、抱きついてみた。
「だからもう、ボクのものになってよ」
溢れる。
溢れてしまう。
「なぁ、オレってお前のこと好きなのか」
「ちがうの?」
「ちがわないけど」
「あいしてるよね?」
「・・・・・・」
そうかも。と口の中で呟いた。
愛していると君が言う。
「いいのかな」
「そのためにボクがいるんです」
溢れて伝わってしまう思いがあるなら。
「兄さんがいればそれで幸せなんだ」
いつか言えるだろうか。
何も怖がらずに。
あれ?・・・おかしいな。ちょっとね、シリアス気味な話になるはずだったですよ。
でも所詮うちの子たちラブラブやからさ・・・。
それ以前にお題やっと二つ目ってのはどうなのさ!!(笑)す、すいません。頑張ります・・・。
04.7.1 礼