「泣かないで」

 

 

 

 

>> きみにしかきこえない

 

 

 

冷たい風が吹く冬の日の午後。

悲しい結末を残して事件は終わって、うつむいた兄のほどけた髪がさらりと流れた。

「・・・・泣いてねぇ」

ちいさく言った声は、震えるわけでもなく、途切れるわけでもなく。

「そう?」

「うん」

それでも、どこか重くため息をついた兄の。

「泣いてる暇なんか、あるか」

その言葉の先を思えば。

 

「でも、ボクには我慢しなくていいんだよ」

その金に鋼の手を伸ばして。

かきあげてみれば、ちらりとこちらを見て、ふと笑う。

「ばーか」

そんな憎まれ口が、自分には涙よりも涙に思えるのに。

「お前相手に我慢なんかするか」

 

 

そんな嘘をついたり。

無理に笑って見せたり。

 

 

 

空の胸が無駄に痛む。

自分にしか見えない、あなたの涙をどうやってすくおう?

この空の胸に、あなたを閉じ込めて、それで幸せになるのならそれでもいいけど。

 

そうじゃないから。

 

「泣かないで」

「泣いてねぇよ」

泣くには早いだろ。と今度こそ顔を上げてくしゃりと笑う兄の。

意思と決意を思えば。

「うん・・・・」

そう言うことしかできなくて。

 

ああ、だけど自分には。

「兄さん」

こんな肉も血も、涙もない体で。

それなのに、まだ胸が痛む気がするのです。

 

それに名前をつけて、楽になるなら、それでもいいけど。

 

「アル」

「ん?」

「くくって」

くるりと後ろを向くと、さらりと流れる兄の金色の髪。

それに再び手を触れて。

丁寧に編んでいくことで、その『名前』の行方を振り払う。

 

「はい、出来た」

すぐに終わってしまう三つ編みが、すこし名残惜しいけど。

それすらも振り払って。

振り、払って。

 

 

木枯らしの吹く荒野で、また手がかりを失って。

先の見えない自分たちの。

「アル」

「ん?」

「お前、なんでも分かっちゃうんだな」

半分照れて、そう言った兄。

「・・・・・なんでもじゃないよ」

泣かないでと、言ったのは。本当に泣いているのだと思ったから。

そんなのは兄さんのせいじゃないよ、ボクは鎧の体だって案外気に入ってるんだ。大丈夫、次は手がかりが見つかるよ。

そんな慰めを言えなかったせい。

言いたいのは。

「それに、兄さんのことだけだし」

そんなことじゃない。

「・・・・・」

兄は、また少し笑ったみたいだった。

照れ隠しに向けた背中を追って、自分も歩き出す。三歩行った先で。

「これから・・・」

どうする?と言いかけたのをさえぎる声。

「おまえだけなら」

「・・・・・・え?」

「おまえにしか聞こえないなら」

 

「ボクだけだよ」

だから一人では泣かないで。

「うん」

兄は立ち止まってこちらを振り向く。それを見下ろした自分に伸ばされる手。

抱き上げた体を抱きしめてみれば、それでも兄の瞳から水分が落ちるわけでもないのだけれど。

その思いを、自分が受け止める。

 

 

 

 

その言葉の意味を。

 

 

 

 

 

なんかいろいろ履き違えてる気がするんですが(笑)
恋かもしれない、というお題なので、曖昧さを前面にだしたくて、
書いてはみたものの。
っていうかお題「君にしか聞こえない」って言ってるじゃないか!!
ちがうちがう間違ってるよ!(笑)