赤いコート・長髪のアルにめろめろして、アルがその姿を取った訳を、自分なりに解釈してみたいなーと思いました。
解釈って言うか普通に妄想しただけです(笑)設定は完全にアニメ寄り。最終回後、師匠のところで修行しているアルなので、アルエドらしい要素はありません。兄さんも出てきません。・・・・・けどあの兄弟ふつうがラブラブなので(苦笑)・・・・アニメが苦手な人はブラウザバックプリーズ!
>> キヲク
忘れることはないのだという。
記憶とは脳の引き出しの中にしまわれている、過去の体験だ。
人はその引き出しから、記憶を出してくることで思いだすことができる。だが人がする体験は膨大な数だ。目から入る情報、耳から入る情報、肌から、鼻から。
五感を通じて落ちて来る情報は多すぎて、それでもその総てを人は、覚えているのだと言う。
だがあまりにも多い情報量に、どうでもいいことから、あまり使わない引き出しに片付けられてしまう。大切なことはよく使う引き出しに、目の端に映っただけの情報は、使わない引き出しに。
よく使う引き出しは、なにしろよく使うのだからスムーズに出し入れ出来る。つまり、簡単に思いだすことができる。
でも使わない引き出しは、引き出しそのものの場所が判らなくなり、思い出せなくなる・・・らしい。
「だから忘れるなんてことは無いんだとさ」
イズミに言われて、アルフォンスは考え込む。
「でも、ボクには記憶をしまう引き出し・・・脳がありませんでした」
「そうだね。だがそれなら鎧の時に昔の記憶があったと言うのも変だろう」
アルは頷く。
「兄さんは鎧に血印を仲立ちとしてボクの魂を定着させたんですよね」
「そうだよ」
ならばその魂に。
記憶というものは。
「不思議だね」
彼女は目を伏せて笑う。
「肉体と精神と魂と。何故人は魂というものがなければ抜け殻なんだろうね」
イズミの言葉にアルも小さく頷く。
「肉体と精神と、それを繋ぐ魂・・・血印」
「あの子はやっぱり天才なんだろう。どれが欠けてもダメだとはいえ、一番欠けてはならないものを取り戻したんだから」
鎧の体に魂を定着させる。自らの体の一部を失わせて。
ふと顔を上げると、小さな頃のふたりの写真がある。その隣りにアルの知らないふたりの写真も。記憶にあるよりはるかに成長した兄は、延ばした髪を編んでまとめ、片手と片足を機械鎧にし、それでも昔と変わらない笑い方で笑っている。
兄の横の鎧自体にはアルも見覚えがある。家の地下室に置いてあったものだ。
(アルー!)
(ちくしょう!持って・・・)
悲鳴のような声が耳に残る。
・・・持っていかれた。
そこでぷつりと途切れた記憶は、ロゼという名の少女の涙からまた始まる。
知らない兄の姿とその横の鎧。これが貴方だったのだと言われても。
「取り戻せるんでしょうか」
「それが代償でなければね」
「代償・・・でも」
「錬金術が等価交換だと言うのは今でも錬金術の基本さ。真実はどうあろうとね。・・・それとも記憶を練成してみるかい?」
「・・・」
それはダメだ。と瞬間に思った。記憶の練成など有得ない。
「ボクの記憶は人に戻るための代償として持っていかれたんだろうか」
「それはないとは言えない」
「でも体を失ったはずのボクの体は今ここにある」
「そうだね」
「なら、取り戻せるはずだと思います」
死んだはずの兄を生き返らせたこと、失ったはずの体を取り戻されたこと。
「忘れていた方が良かったと思うかもね」
「はい」
「エドが忘れさせたんだとも考えられる」
「はい」
それでも、とアルは続けなかった。
「兄さんに会うために記憶は必要だと思います」
自分の記憶そのものより、その先にある兄との再開のために。
「会ったら一番に怒鳴ってやるんだ」
「じゃああたしはその後でいいよ」
「こっ・・・殺さないでやってください」
「保証はできないね」
うわぁ、とアルは首をすくめる。しかしイズミの口許がほころぶのを見て背筋を伸ばす。
「ほんとに、昔からあんたたちは仕方ない奴等だよ」
呆れたような、しかし優しいもの言いを。
「すみません」
「覚えてないくせに謝るんじゃない」
「でも・・・」
あたしはね。とイズミは青い空を見上げた。窓の向こうはうららかな春の景色。
「あんたたちがお互いを錬成したと聞いて、やっぱり、と思った」
「師匠・・・」
「他の何を捨てたってお前たちはお互いを諦められない。人ひとりつくるには、自分のことを考えていてはできないんだろうね」
諦められずに兄は幼い手でアルの魂を鎧に定着させ、諦められずに。
アルは兄を生き返らせた。
この手に届かないことを、信じたくなくて。
でも今、この手は兄に届かない。
「・・・」
兄さんと、心の中で呼びかけても。呼びかけても。
「兄さんは、生きてますよね・・・」
アルのように全消失せずに。
「バカモノ」
がつ、と頭を殴られてアルは顔をしかめる。
「お前が信じなくてどうする」
「・・・はい」
記憶を取り戻したい。どうにか取り戻して。
彼を。
この手に。
得たい。
(兄さん・・・)
「本当のところ、あたしには判らないよ。あの子が生きているかどうか。普通に考えるなら、賢者の石で能力を底上げされていたお前と違ってエドには何もなかったんだから、代償として何もかも持っていかれていてもおかしくない」
アルは自らの指先を見る。
足、指。そんな先端から傷みもなく分解されていく『感触』。感じた端から何もなくなっていくそれを、アルは一生忘れないと思う。
「でも、彼女の見たものは、ボクの時とは違った・・・・・・」
前髪の赤い、赤ん坊を抱いたロゼという女の人は、一部始終を見ていたのだ。
エドは、解体されたわけではなく。ただ光に包まれて。
そして何より。
彼が死んだだなんて思えない。
そんな喪失を。
「きっと生きてる。兄さんは」
「さあ、そろそろ夕飯の支度だ。お前は酒屋までお使いに行ってきな」
「はい、師匠」
そんな大きな喪失を、世界が、許すわけがない。
アルフォンスに残されたものは彼の赤いコート。古いトランク。その中に入った少しの荷物と、手帳。
エドの研究手帳だと言われてめくってみると、そこには確かに兄の字で、旅行記がつづられていた。
アルは夕食後の眠るまでの時間を、この旅行記の研究に当てていた。
少しだけ幼さの抜けた、けれど特徴的で、正直汚い文字たちが連ねるものは、ごくごくありふれた風景に溢れている。
例えば南の田舎町で、一時間も汽車が遅れて、これは乗り遅れたのかと思って諦めかけたら汽車が来た。一時間も遅れたのに誰も文句を言わないなんてセントラルじゃありえない。とか、イーストシティの図書館に用があって来たはいいのだけれど、大雨に降り込められて3日も宿屋に缶詰になったとか。本当に他愛もないことばかりを書いている。
だがウィンリィが、アンタたちはいつも傷だらけで、エドが機械鎧壊したのも・・・・・と愚痴りながら、指を折って数えていたところを見れば、こんなのどかなことばかりでは無かったのはすぐに想像できる。もとから喧嘩っ早い兄だったし。
もちろん錬金術の研究を人に見られないための手帳なのだから、表側に本当のことを書く必要性は無い。ただ。
ところどころに出てくる、弟という文字で表された自分との旅の日常は、どこか懐かしさとあたたかさで溢れて。
決して嘘ばかりではなく、辛いことばかりでもなかったのだと。
「信じたい、だけかな」
アルフォンスは苦笑する。覚えている兄との生活に似た生活が、たとえ、苦しい旅の間でさえも営まれていたと。
そこから見えてくるふたりの旅を、記憶はなくとも、色鮮やかに思い描くことができた。
母の人体錬成に関しては共同研究だったため、そのことに関するメモには、拙いながらも共同の暗号があった。
だが、旅に出てからは自らの暗号を開発したらしく、その時の暗号は一切使えなかった。
そんな手帳の暗号は、すこしずつ解読をはじめているが、さすがに国家錬金術師のものというべきか、非常に難しい。
淡々と書かれた文は決して難解さを伴わないのだが。
何ページにも渡る旅行記を見るともなしにめくっては眺める。
ウィンリィにもらった写真に残された自分達の姿とともに。
エドらしい意地の悪い笑い方と、鎧だから表情があるわけもないのに、どこか飄々とした雰囲気の自分。こんな奇妙なふたりの旅は人目にさぞや奇異に映っただろう。けれど。
だけど、アンタたちはほんとバカばっかりして・・・・・。
お前達はいつでもバカだったけどねぇ。
アンタたちみたいなバカ見たことないわよ!
この頃を知る人たちに聞けば、いったい自分達はそんな悲壮な状態の中で何をそんなバカなことをやらかしたんだろうと思うような言葉ばかり返ってきたものだ。もちろん人体錬成を含むいろいろは途方もなくバカなことだろうが、彼女達がそれ以外のことで呆れたように言っているのはその言葉から伝わってくる。
だが、それは兄も、自分も、笑うことを忘れていなかったということではないか。そして決して諦めてなかったと。この写真を見るとそう思うのだ。
アル、と呼ぶ声を思い返してみる。それはやはり幼い頃の兄の声。
兄さん。それに心で呼びかけてみる。どこかにいるはずの彼に、届けばいいと。
「・・・・・・・・・・あれ?」
アルはページをめくる手を止めてある1ページ見入った。
最後の方のページに、ALPHONSEから始まる文がある。
手帳内の全篇において、自分のことは『弟』と表されているにも関わらず、だ。
暗号を解くのに、他のページに無いセンテンスはきっかけになる。気になるのだが、うまく解読できないままでいる。
「これ、錬成のあと・・・・・?」
だがよくよく見てみれば、紙をとじてあるところに、錬成の跡が残っていた。
エドワードがしたものだろうか?だがあの完璧主義の兄がこんなほころびを残すようなことをするだろうか。
無闇にどきどきとしてきた胸を押さえて、アルフォンスはその手帳に見入る。
彼がそんなことをするとすれば・・・・・・。
「わざと・・・・?」
誰かに見つけて欲しくて?いや、誰かにというよりは、アルフォンスに。
震える指でそこを撫でる。
不意にエドワードに呼びかけられたような気がして、アルは机から立ち上がる。
手帳を置くと、白墨を手に床に錬成陣を描く。
見れば2枚のページを1枚にみせかけるような単純なものだ。だが、単純だからこそ、正確に錬成してしまえば、外からは見分けがつかない。
錬成の解除を。
準備が整うと、アルフォンスは静かに息を吐いた。緊張を解きほぐしたくて。
目を閉じて静かに吐いた息。脳裏に浮かぶ兄の顔。力が抜けた瞬間、アルフォンスは目を開けて息を詰めた。
かざした手の下、描かれた陣から光が広がる。
ふわりと、上昇気流のように渦巻く風。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
それらが収まって後、アルフォンスは一見何も変わらないような手帳に手を伸ばす。
ぱらぱらとめくっていき、そこに。
「アルフォンスへ・・・・・・・・」
兄からのメッセージを見つけた瞬間、不覚にも涙が出そうになった。
それは空白の時間を埋める、大事な。
『アルフォンスへ。今日シチューの味付けに文句つけてごめん。お前が感覚の無い体で、いつも必死にやってくれてるのを知ってるのに、オレはいっつもダメだなあ。アル、めちゃくちゃ怒ってたのに、あのあとの騒動で結局うやむやになっちゃって、なし崩しで今更謝れないから、ここで謝っておく。こんなとこで謝ってるだけじゃダメだってのも、ほんとは判ってるんだけどな。・・・・ああ、また来た。お前はマタタビで出来てんのかと思うほど、気が付いたら野良猫を構ってるよな。おい、五匹もいるぞ?マジで一回あの鎧も成分分析しとくべきか?そのうち、アルが人の体を取り戻す時に、鎧がマタタビだったので失敗しました。じゃ、洒落になんねぇからな・・・・・・』
空白を埋める大事な文章だと思われたそれは、旅行記よりかなり兄らしい文で書かれた、手紙というよりは日記だった。
「・・・・・・・・・っていうか何言ってるのさ兄さん」
そう言う意味では、旅行記とほとんど変わらない。
「こんなもの隠すために、わざわざ錬金術・・・・?」
失望すればいいのか、呆れればいいのか、怒ればいいのか。それのどれも違うような、当っているような微妙な気分でアルは続きを読み進める。
『傷の男のときも第六研究所の時もそうだった。アルが普段、あんまりあたりまえに笑ってくれるから、オレは兄ちゃんなのに、すぐそれに甘えちまう。アルに怒ってもらわないと判らないなんてほんと情けない。こんなんでお前の体を取り戻そうなんておこがましいよな。でも、絶対に取り戻してやるから。お前だけは、何があっても』
「・・・・バカ兄・・・・」
手帳に向かって呟いて、アルフォンスは酷く切ない気分になった。
お前だけはと、手帳の向うから呼びかける兄は、自分の手足のことなどまったく省みていない。記憶などなくとも、アルフォンスには自分が自分の為だけに旅に出ていたとは思えない。エドワードが母のためになくした足、自分のためになくした腕。そのふたつを。
「ボクだけ戻ったって仕方ないだろ。兄さんと一緒でなきゃ嫌なんだよ。だから傷だか研究所だかよく判らないけど、ボクは怒ったんじゃないの?判ったふりして全然判ってないこと書かないでくれる?」
本人に言えないものだから、アルフォンスはぐちぐちと手帳に語りかける。それで伝わるわけがないと判っているけれど。
『そしたら旅なんか止めてリゼンブールに戻って、一匹くらい猫だって飼おう。でも一匹だけな。お前は拾い出すとキリがないから。それから、一緒にシチューを食べよう。その時はオレが作ってやるよ。お前にいくらでも文句言わせてやる。アル、覚えてるか?昔オレたちが母さんのために研究してた頃のこと。ふたりでさ。楽しかったよな。暗号からふたりで相談してさ。あの頃みたいに、お前は笑ってくれるかな。なあ、アル。不安とか、悲しいこととか、嫌なこととか、全部抜きにして、心からアルが笑って、そうやって、ずっと暮らしていけるようになったら・・・』
そこで一端、兄の言葉は切られていた。
『ああ、呼んでる。あんな猫まみれのとこにオレを呼んでお前はオレをどうするつもりだ。でもそうだな。大事なことは、やっぱ口で伝えるよ。アルと一緒に、そうやって、暮らしていけるようになったら』
バカ兄、ともう一度呟いたアルの目からこらえようのない涙が零れた。
仲のいい兄弟だった。
毎日のようにケンカしていたけれど、それだけ当たり前に傍にいた。
エドワードと旅をしていたらしい4年を失っているアルフォンスにとっては、兄と2人で暮らした毎日の方が昨日のことのように近くて。
それを覚えているかと聞く兄との隔たりはたぶん確実にあるのだけれど。
そして、こんなバカなことを錬金術で隠すほどのバカな兄ではあるけれど。
それでも彼が途方も無くアルフォンスを大事にしてくれていたことはよく判る。途方も無く。
アルフォンスは立ち上がった。
「師匠!」
翌日の仕込みを店でしている夫婦の下にアルフォンスは飛び込んだ。
「どうした?」
「・・・・・・ボク、旅に出ようと思います」
「旅?」
「ボクと兄さんが行ったところを尋ねてみたいんです。この手帳の解読をしながら。兄さんはきっと生きてる。それなら兄さんの研究は完成していたはずなんだ。そこに兄さんを取り戻す鍵も、ボクの記憶を取り戻す鍵もある気がします」
見上げたイズミの強い視線がひた、とアルフォンスを捉える。
「いいんじゃないか」
見た目も気持ちの上でも11歳手前のアルフォンスの旅は決して容易なものではないだろう。だが、無口で師弟関係としてのイズミとアルにはほとんど口出ししてこないシグがさらりと肯定した。
ふと、イズミが視線を上げる。
「エドに比べれば大きいし、しっかりしてる。エドみたいな無茶もあんまりしないだろう」
「そりゃそうだけど、そんな問題じゃ・・・・」
イズミが反論しかけて、ため息をついた。
「そんな問題じゃないと言ったところで、アンタはもう決めてしまってるようだね」
まるで自分に言い聞かせるように。
「あたしは、それをするのは今から一年後でも遅くないと思ってる。だから賛成は出来ない」
アルは見上げたまま息を詰めるように話を聞いていた。
「でもお前の決意する気持ちは判る。あたしもエドが心配だし、どう考えてもエドに一番近いのはお前だろう」
それに、とイズミは続けた。
「お前はエドのような無茶をしないとは思うけど、それは『エドのような無茶』をしないだけで、無茶をしない人間ではないと思ってる」
「・・・・・・・・・・」
アルは思わず苦笑した。どれほど自分達はその手の信用におけないのかと。・・・・・どれほど心配をかけたのかと。
「だから約束しな。決して無茶はしないと」
イズミの手が伸ばされて、アルの頭を撫でた。あたたかな手が優しく。
「はい、師匠」
頷いたアルフォンスに、イズミが苦笑う。
「まったくあんたたちは兄弟揃って」
風呂に入っておいで、涙のあとがついてるよと笑われて、アルフォンスは慌てて夫婦の前から辞した。
出発の日も、あたたかな春の景色は、惜しみなく広がっていた。
薄青の下、わざわざ店を閉めてまで見送りに来てくれたふたりをアルは感謝を込めて見る。
必ず定期的に連絡をいれると約束をして、アルフォンスは兄のトランクを持ち上げた。
汽車が黒煙を吹き上げる。出発が近づいていた。
「じゃあ、行ってきます」
そう言ってふたりを見上げると、ふたりは笑って頷いてくれる。
タラップを踏んで中に入り再びふたりを見ようと振り向いた時、強い風が吹いた。
赤いコートが翻ってなびくのを押さえたアルフォンスは出発の汽笛の音を聞いた。
赤コートアル妄想(笑)映画の前に赤いコートを着たり、髪を伸ばすアルを自分なりに解釈したかったんですが・・・・したら長くなった・・・・。
髪伸ばすとこまで行けてないよ!できればもう少し続きを書きたいと思います。軍部に乗り込むアルとか(笑)兄さんのまねをするアルとか!
待て後編(笑)
05.4.13 礼
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