>> after COMPLEX - ED



兄さんがスプーンを差し出してにやりと笑った。

「ん?」

ボクはぷい、と横を向く。

「観念したらどうかね、アルフォンス君」

「その言い方と笑い方、大佐にそっくり」

横を向いたまま言ったら、兄さんがいきり立った。

「誰があんなオッサンに!」

オッサンはさすがにひどいんじゃないかなって思ったけど、今はそれどころじゃないからかばえません。ごめんなさい大佐。

「もうボク、自分で食べられるってば兄さん」

元の体に戻って以降、兄さんはボクに構いっぱなしだ。

最初の内こそ実際、まともに手足どころか指の先も動かない状態で、兄さんの世話になるしかなかったんだけど。

もう今は動きたくて仕方ない。いつまでも兄さんにご飯食べさせてもらってる場合じゃないんだし。

「ダメだ」

「何がダメなんだよ」

「絶対ダメ」

どうやら理由は無いらしい。こうなると意地っ張りの兄さんが引く分けない。

引くわけ無いけど。

「じゃあ食べない」

半分兄さんに育てられたようなボクは、兄さんと同じくらい意地っ張りだという自覚がある。

ボクだって引かないぞ。っていう決意を込めて兄さんを見上げる。ベッドサイドで兄さんが一瞬気圧される。

「た、食べないってお前・・・・。食べなかったら」

「一日くらい食べなくたって死にやしないよ」

「あたりまえだ!!」

ボクの言葉に、兄さんは凄い剣幕で叫んだ。ボクはちょっと驚いて息をのむ。

兄さんて。

「そうだよ当たり前だよ。だけどこんなふうに誰かの手を貸してもらってばかりじゃ、生きてけないよ」

誰かの手。兄さんの手。ずっと貸してもらって、それで独り占めの言い訳にするなんて冗談じゃないよ。

兄さんは兄さん。ボクはボク。真正面から、対等に向き合って。

兄さんに独り占めされるんじゃなきゃ、ボクがつまらない。


「・・・・・・・・・・・どうしても、イヤか?」

差し出された銀色のスプーンに、ボクはう、と詰まる。

そういう困った顔は反則。

兄さんは普段すっごく押しが強いくせに、本当に困ったときとかダメなときはごまかしちゃう癖がある。

まさかボクがその顔に弱いの知っててわざとやってるんじゃないだろうね。

「嫌じゃないよ。嫌な訳ないだろ」

差し出されたスプーン。ボクを構いたがる兄さん。

「そっか」

安心したように笑って、兄さんがスプーンを器に置く。

それをボクに持たせてにこにこと。ボクがお粥に口をつけるのを待ってる。

兄さんはボクがものを食べるのを、すごく嬉しそうに見る。それはそれはこっちまで笑えてくるくらい幸せそうに。

だから兄さんがボクに食べさせようとするのを。

ボクだって嫌いじゃない。

本当に。



ひとくち、匙にすくったお粥を食べると、兄さんは満足したみたいだった。さっきまで食べさせようと意固地になってたのが嘘みたいに。

それを見たら、ボクの意地もしぼんだ。

「兄さんに食べさせてもらうの、好きだよ」

「うん。オレもお前に食べさせるの好き」

うわ。

「・・・・・・・・・・ほんっと」

反則だよ。とボクは口の中で呟く。


いつまでも食べさせてもらってるのが嫌で反抗してみたのがバカみたいに思えてくる。


「いいよ」

「え?」

「食べてあげてもいいよって言ってるの」

持ってた銀の器を兄さんに押し返すと、兄さんは一瞬戸惑って、それからやっぱりすごく嬉しそうにして。

「なんだよお前、なまいき」

そんなこと嬉しそうに言われたってさ。全然・・・・・。

「ほら」

銀色のスプーンが差し出される。それににこりと笑いかけた。

「違う、兄さん」

「は?」

兄さんは多分わざとしたりしないけど、ボクはけっこうずるいから。

「口移し。ね?」

ぴしり、と音を立てるみたいに兄さんが固まる。

ボクは兄さんが弱い自分の笑顔を知ってる。

「く・・・・・・くち?」

兄さんは笑ってるのか、引きつってるのかみたいな顔をして。

「そう。ダメ?」

「ダメって、ダメっておまえ、ここ」

こつこつ。と静かなノックが響いた。

「はははははい!!」

はははははいって兄さん。

「アルフォンス君?・・・ああ、エドワード君も。・・・・・・・・・あら、どうかしたの?」

看護婦さんが。

「顔、真っ赤よ。エドワード君」

「何でもない!」

「ねえ、ダメなの。兄さん」

「ダメに決まってる!」

「何がダメなの?」

看護婦さんに問われて、今度こそ兄さんは完全に固まった。真っ赤な顔で。





あら、またお兄さんが食べさせてくれてるの?いいお兄さんね。

ええ、そうなんです。自慢の兄なんですよ。

という会話が交わされている間も、兄さんは固まったまんま動かなくて。

「お昼からのリハビリなんだけど、先生が遅れるみたいなの。3時になったら呼びにくるから」

「はい。わかりました」

看護婦さんが用件を伝えて、出て行った後もなかなか回復しなかった。










妙なオチになった・・・・。after COMPREXの兄さんバージョンです。兄さんが食わすと兄さんだけが照れる結果に。・・・何故。
っていうか頭の中がちゅーモードなんですよ・・・。すんません(笑)
04.9 礼