>> after COMPLEX - AL
柔らかく煮込んだ粥を吹いた息で冷まして、アルフォンスが木のスプーンを差し出す。
口元まで持ってこられたそれと、穏やかに微笑んだ弟の姿を認めて、エドはそれらから目をそらした。
「ちょ・・・・。なんで赤くなるのさ」
耳まで赤くなって言葉を濁すような兄に、アルも妙に照れる。差し出したスプーンを引き返して自分の口に入れる。
少し甘い粥と優しく馴染む木の食器。
「なんか・・・・、前に大佐が妙なこと言ってたな、と思って」
そう言われて思い出すのはアルがまだ鎧姿だった時のことだ。エドの片手が使えなくて、今のように食べさせていた時。
それを目撃したマスタング大佐に変だと言われた。
「そう言えばそんなこと言われたね」
ハボックにも妙な顔をされたのだが。
兄弟なんだから、片方が無理をさせないのは当然だと思ったし、兄弟なんだから変なことは何もないと思っていた。
仮に変だとしても、相手がお互いなら構わないというスタンスを。その時はそれこそが変だと言われていることに気付かずに。
でも結局今もそのスタンスは変わらないまま。
なぜなら。
「でも今は恋人同士なんだから構わないでしょ」
ぶはッと、口に入れてもない何かをエドが器用に吐き出す。
「お、おまおまおまえな!!!」
「何?違うの?」
「ちが、ちが・・・・・」
ぱくぱくと口を開いて、まるで空気が足りないみたいに。
・・わない。と聞き取れないくらい小さく言って、エドはまたアルから目をそらす。その顔や耳が。
また真っ赤になるのを見ていたら、可愛く思えてすこし笑う。
「食べないと、良くならないよ」
言ってみたら、真っ赤なままでうんと頷く。自分で食べると言い出すかな、と思っていたけれど、エドは何も言わずにいる。
もう一度少し冷めた粥をすくって差し出すと、大人しくそれを口に入れた。
「熱くない?」
「平気」
噛むまでもない粥はすぐに舌に溶ける。言葉をさしはさむ暇もなく次をすくって口元へやる。
「アル」
「ん?」
食べる間に一言ずつ。
「お粥ばっかり飽きた」
「そうだね。そろそろ熱も下がったし」
「肉食いたい」
この兄は。と思いながらも食欲の出てきたことに安堵する。
「オートミールなら作ってあげるよ」
ええー。と不満そうな顔をして、がし、と口に入れたスプーンを歯で噛んで離さない。
「にーいさーん?」
自分で食べる時はほとんど好き嫌いもなく、それはもう勢いよく食べるくせに、こうしてたまに食べさせる機会があると、すぐわがままを言う。
アルがスプーンから手を離すと、エドは行儀悪くぶらぶらと口でスプーンを動かして、上げるとアルが言うまで離さない構えだ。
「元気になったらね」
「もうだいじょうぶだって」
スプーンを左手で掴んで口元から外して、エドがいう。確かにもうずいぶん調子はいいんだろう。それは判る。
「じゃ、自分で食べれば」
木の器をエドの右手に押し付けて、アルは立ち上がる。頭の中で、貯蔵していた材料を思い浮かべて、ハンバーグなら作れるかな、と考える。
ほうれん草混ぜて、やわらかいハンバーグにしてやろう、野菜もとれるし一石二鳥だそうしよう。と思って歩き出しかけたアルの耳を。
「アル・・・っ」
どこか悲壮な声が掠める。
え、と振り返ってみれば。
がつ、と。
「ちょっと肉食いたいって言っただけだろ、怒んなよバカ!」
ベッドからほとんど体を投げ出すようにして、腕を取られて。
「・・・・・・重い」
がっちり腕を取ったまま、放さずに、エドワードは。
「・・・・・・・・」
口の中で何事かを言っている。聞こえないよ兄さん、と言ったところでこの意地っ張りの兄はきっと声にしたりしない。
別に怒ってるわけじゃないのに、勘違いをしているし。
(そりゃ、ちょっと怒ったふりはしたけど)
「怒ってないよ、兄さん」
怒っていたら、どうしてハンバーグなんて作ろうとしたりするものか。
噛み付きそうな目つきで見上げてきて、怒ってるのはそっちじゃないの、と言いかけてアルはため息をつく。
とりあえず、この倒れこみそうな体勢を。
「判ったから。ちゃんとベッド戻って?冷えたらまた風邪がぶりかえすだろ」
さすがに苦しかったのか、されるがままに戻されても、エドは不機嫌そうな顔を崩さない。
「何が判ったって言うんだよ」
怒った口調には答えないで、引いた椅子を戻して座りなおす。
ふてくされたようにエドはタオルケットを引いて、シーツの上に放り出したスプーンを探して、掴む。それを横から取り上げて。
「すっかり冷めちゃった。兄さんのせいだよ。せっかく作ったのに」
そう言うと、さすがに悪いと思ったのか、目をそらす。
「食うよ」
アルの手のスプーンを取り返そうとして伸ばした手から、アルはスプーンをそらす。
「怒ってないんじゃなかったのかよ」
空を切った手を手持ち無沙汰に下ろして、エドが言う。怒ってないよ、と心の中で答えるアルは、口に出してはさらりと。
「食べさせて欲しいんじゃなかったの?」
ボンッと。
「・・・・・・・・・・・・(びっくりした)」
音を立てるかと思った。エドが真っ赤になっている。
(なんだ)
つまり最初から終わりまでずっと照れていただけなのだろう、エドは。 エドの心の動きなんか全部判ったつもりでいたけど、もう一歩。
足りなかった。
「今日のばんごはんは、ほうれん草入りハンバーグ」
弾かれたようにエドが赤いままの顔を上げた。
「・・・・を作ろうかと思って。 兄さんがもう元気ならこれは自分で食べてもらって、ボクは用意をしようかと思ったんだ」
「アル・・・」
なんだかんだ言って、結構感激屋のエドは、アルの言い訳にすっかりほだされた顔をする。アルが兄の我儘に弱いように、エドは弟に弱い。
アルの言葉を一寸も疑いもしないで、エドの頬がほころんだ。
「なんだ、そうか・・・。ごめんな、アル」
そう言って嬉しそうに笑った兄に、先ほどよりもっと驚いて、
「・・・・・・アル?」
先ほどよりもっと赤くなっている自覚があった。
「おいしいの、作るから」
「・・・・・・・・?うん」
だからそんなふうに他の人の前では笑わないように。
それだけはどうしても伝えなければならないけれど、とりあえずはこの顔のほてりを納める方が先決だった。
ご、ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい。新婚さんでごめんなさい(笑)
何も考えないで書くと絶対バカップルになって終るようです・・・・。信じてもらえないと思いますが、男前兄さんが好きです(笑)
「COMPLEX YEAH!」って本に平然と食べさせる弟、食べさせられる兄というのを書いたのですが、それの人間バージョン、
かつ、平然とじゃなく照れちゃうふたりというのが書きたくてですね・・・。あの兄さんバージョンも書きかけてたり・・・(しーん)。
い、いらないですか・・・。そうですか・・・・・。 04.9 礼